病院内のジェネリック状況②

以前、院内のジェネリック状況について書いてみました。

今回はどのくらい使用されているか具体的に見てみましょう。

(以下、ジェネリック医薬品=GE

院内はGEが多い

前回の内容で院内では一薬品(成分)に対し、基本的に先発品かGEのどちらかしか採用しないということでした。

ではどちらが多いかと言うと、GEの割合が多いです。

具体的には各医療機関での使用薬のうち60~70%がGEで使われています。

(参考資料➜『奈良県より全国けんぽの資料(2ページ目)』)

医療機関の形態で異なる

GE使用率についてさらに細かく見ていくと、医療機関の病床形態によります。

ちょっと難しい資料ですが、参考ポイントがありました。

➜『中医協ジェネリック調査(スライドNo.21)

クリニック(診療所)と病院の院内処方の違い

クリニックと病院の院内GE使用率は、上記の調査によると《クリニック<病院》というデータが出ており、クリニックの院内GE使用率は低い傾向です。

院内GE使用率は病院では約50%に対し、クリニックでは約30%です。

クリニックと病院で院内処方を扱う場合、大きく異なる点は、【薬剤師がいるか、いないか】です。

クリニックでは薬剤師がいないので、薬を準備するのは看護師などのスタッフが行います。

薬剤師以外のスタッフが薬の管理や調剤を行うことは、いろいろ大変で覚えることも増えます。

クリニックのGE使用率が低い理由として具体的に考えられることは、

  1. GEは先発品と名称が異なるため、医師が指示する薬と実際の薬の分別が難しい。
  2. そもそも医師はGEが好きじゃない(効果の信用度が低い)。
  3. GE使用によるメリットがそれほどない。

これらが想定されます。

1.薬の名称違い

医師は薬の指示をする時に先発品で言うことが多いです。

なのでジェネリックを採用した場合、先発品とジェネリックの名称をリンクして覚えておく必要があります。

例えば、

①先発品「ロキソニン」⇔GE名「ロキソプロフェン」

②先発品「リピトール」⇔GE名「アトルバスタチン」

①のように似たような名称であればわかりやすいのですが、②のように全然違う名称のものもあります。

②の方が割合的に多いかな

カルテなどオーダーリングがPC管理されている場合、医師と他スタッフがGE名でわかるようシステムが組まれていると、双方に理解できるとは思います。

そうでない環境下では、この名称の煩わしさや間違いの原因にもなるため使用率が下がると考えられます。

この〈名称の違い〉は薬剤師はさほど抵抗ないことですが、他医療スタッフにとっては煩わしさ以外ないです。

2.GEの効果信用が薄い

GEは先発品と同有効成分のため「同等の効果」ということで知られています。

ですが使用している医師からすると一部の薬品には「効果が弱い」、「信用できない」といった声が聞こえてきます。

患者さんも同じような体験をされると先発品を希望することもあります。

痛み止めや睡眠剤など効果を実感される薬にありがちですね

正直GEに対してどこまで先発品と同じかはっはきりわかりません。

ですが、その分医療費を安くできるということで割り切るしかないと思います。

3.GE使用のメリットがそれほどない

GE使用するメリットと言えば、GE使用量によって加算(利益)がつきます。

『外来後発医薬品体制加算』

ただし、この加算は医院全体の売り上げからすると微少であるため、GEを採用するに見合うかどうか悩ましいところです。

しかもこの算定をとるには、各医療機関の使用医薬品のうち70%以上のGE使用量が最低でも必要になります。

なので多少GEを使用しても加算の対象にはなりません。

管理する手間の分、加算がある感じだね

DPC病棟などの包括請求はGE率が高い

DPC病棟は入院治療費が包括になるため、どんな薬を使っても疾患に見合った治療費で賄われます。

つまり、高額な薬剤を使うほど病院の利益は下がり、低額の薬剤を使うほど利益が上がることになります。

例:入院日額費3万だとして、そのうち薬剤費が1万(先発)と5千円(GE)を比べると、GEの方が病院側の出費が少なく、利益率が上がります。

先発品など高い薬剤を使うほど病院側の〈持ち出し分〉が増えることになります。

最近ではDPC病棟や地域包括病棟など【包括医療】が増えてきている背景から、より病院内ではGEを使う傾向になっています。

GEが採用されない場合はどんな時?

出来高病棟では先発派

包括請求に対し、出来高請求における病棟では積極的にGEが使用されない傾向になります。

出来高請求は文字通り「治療した分だけ請求できる」ことになりますので、使用した薬が高くても安くてもその分請求できます。

なので包括医療のように、【入院日額費から薬剤費の差額】を気にする必要がなくなります。

結局のところGEを使うと、名称の煩わしさや効果の信用性など考えると積極的に使う理由がないです。

先発品の方がGEより先に覚えるしね

ですが、国の医療費削減を考えると、GEを使うというのは当然選択肢に入るのですが、医療従事者皆が同じ感覚になるのは難しいです。

ちなみに包括病棟か出来高病棟かは各病院のHPなどではわからない場合もあるので、受付に聞いてみると答えてくれます。

(実際はこれを理由に病院を選ぶ患者さんはいないと思いますが。)

クリニックでは

多くのクリニックは開業医が経営・診療を担っており、医師個人の見解で決断されるため、「嫌い、面倒」などということがあればGEは使用されない傾向にあります。

先に挙げたように「GE加算」はありますが、院内処方で薬剤師がいない中で管理のわずらわしさを考慮すると、わざわざGEを使うほどのメリットを感じないと思えます。

(※院外処方の場合は調剤薬局が対応するので、GEの判断基準は異なるでしょう。)

ちなみに病院では医師個人の意見だけではなく、全体の利益や医局以外の他部署の意見も考慮されるので、「GEの好き嫌い」だけでは決断されないことが多いです。

剤形や使用の都合で先発

包括医療でも先発品を優先させる場合があります。

具体的には、

  1. GEが先発品に比べ、劣るであろう薬がある
  2. 名称が取り間違いの原因になる
  3. 剤形的にGEにはない

1.GEが先発品に劣るであろう薬

【GEが劣る】というということは科学的には証明ができません。

実際GEは「先発品と同等」ということで承認が得られています。

ですが実際の診療をしている医師は、「〇〇はGEだと効かない、GEだと副作用がある」という薬剤をいくつか聞きます。

そういう場合、利益より先発品が優先されることがあります。

私が経験した医師から先発希望があった薬は、

ソル・メドロール、一部の注射用抗生剤・精神系薬、エパデール、軟膏類、湿布類など

他にも各医師によって様々な意見があると思います。

2.名称の混沌さ

名称が似ていたり、わかりにくいものは間違いに原因にもなります。

看護師など他職種が薬を扱う医療機関では、そのあたりも採用に考慮します

例えば、外用ステロイド剤のGE名は似たような名前が多いです。

例:先発リンデロンVG(GEベタメタゾン吉草酸エステル)⇔先発アンテベート軟膏(GEベタメタゾン酪酸エステル)など

ステロイド外用はパット見で判断できないものが多いので、先発がいい。

同系統薬剤以外にも、別系統で薬剤名が似ているものは特に注意です。

同系統の場合、もし間違って投与したら大きく悪い影響にはならないことが多いですが、別系統で間違うとリスクが高いです。

例:クエンメット(先発ウラリット)⇔クエン酸第一鉄(先発フェロミア)

最後まで読めば判別できますが、冒頭3文字が同じだと急いでいる時は間違えることもあるかもしれません。

電子カルテの処方入力では全文字入力せず、頭3文字で判別することが多いです。

医師の処方入力でも間違えないよう配慮が大事だね

逆に先発品でも紛らわしい場合もあります。

例:ノルバスク(GEアムロジピン)⇔ノルバデックス(GEタモキシフェン)

こういう場合、GEを考慮して似たような名称にしないよう配慮します。

3.先発にだけある剤形

GEは先発品の全ての剤形に対応しているわけではありません。

剤形の使用法によって変更すると難しいケースもあります。

例:ディプリバン(GEプロポフォール)

先発品はシリンジに充填されたキット製剤とアンプル、バイアルがありますが、GEはアンプルとバイアルだけでキット製剤はありません

このキット製剤は〈専用のシリンジポンプ〉にセットすることができ、より適切に薬剤を投与することができます。

アンプルやバイアルも同様の効果が得られますが、より厳密にコントロールしたい場合は不向きになります。

逆に薬によって先発にはないGEだけある剤形もあります。

例えば、内服で先発ではカプセルしかないけど、GEでは錠剤もあるなど飲みやすさを考慮した薬もあります。

その場合、GEが採用されることもあります。

GE促進するために加算がある

GEを促進していくためにいろいろ大変なことがあるとお分かりいただけると思います。

正直医療従事者側からすると、効果が同等とは言え定かではないものを勧めていくのは微妙と思うこともあります。

ですが国の財源である医療費負担軽減するため、GE促進を進めていくことが特に薬剤師には課せられています。

なのでこれら管理の負担を担う分、【後発品加算】というものが与えられています。

この加算がなければ多くの医療機関がGEを推進しないでしょう。(包括病棟は別として)

ただ、この加算をとるための条件は年々厳しくなっていき、特に調剤薬局ではこの加算の有無が会社利益に直結してきます。

医師と薬剤師のGEに対しての見解

最後に医師と薬剤師のGEに対しての見解をお話しします。

GE好きな医師はいない

病院の経営上を考慮してGE促進に賛成する医師はいますが、そうでなければ効果も怪しい、名前も煩わしいGEを使いたくないのがホンネでしょう。

中には後発品メーカと仲がいい場合もあるかもしれないけど・・

なので、経営上影響がなければ先発派が圧倒的です。

薬剤師は職場意向

薬剤師も個々の考えはあるでしょうが、GEを推奨する傾向にあります。

もちろん職場意向に合わせるということで、病院ではDPCならばGE積極採用にするし、出来高なら基本医師の意向に合わせます。

感覚的には出来高でも医師よりGEを勧めたくなる薬剤師が多いとは思います。

医療費軽減によって税金を下げたいですね。

飲みやすさや使いやすさはGEの方がいいこともあるので、そのあたりも考慮します。

特に調剤薬局では後発品加算が影響するので、後発品を推奨します。

病院では後発加算は全体の利益のごく一部ですが、調剤薬局は利益に対する割合が大きいため、より積極的になります。

いずれにしてもGE推奨率は医師より高い印象かな

長くなりましたが、以上病院内のGE状況について書いてみました。

外来患者さんにはGEについて聞かれることがありますが、入院患者さんに院内の薬事情について聞かれることはあまりないので、少しでも何か参考になればと思いました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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