前回の「アルコールと薬~①何でダメ?~」では、アルコールとの飲み合わせによる相互作用のメカニズムをレビューしましたが、今回は影響しやすい薬についてまとめてみました。
前回の内容が知りたい方は下記をご参照ください。
アルコールとNGな理由がわかるよ!
アルコールとの飲み合わせが不適な理由を確認すると、
- ①アルコールの中枢抑制作用などと薬の作用が類似すると、薬の効果が増強または減弱する。
- ②肝臓での代謝においてアルコールと薬が競合して、薬の代謝に影響を及ぼし、薬の効果に影響が出る。
- ③薬がアルコールの代謝を阻害して、二日酔いのような気持ち悪い状態になる。
それぞれにおいて該当する薬剤がありますので、今回はそれらをレビューしてみました。
以下、参考文献
もくじ
何がダメ?〔①類似作用増強・減弱パターン〕
この前提としてアルコールの作用をまず確認すると、
アルコールは中枢抑制、血糖降下、血圧低下、利尿作用といった作用があります。
これらの作用が《アルコール+薬》によって、「作用が強くなる・弱くなる」ということが起きるケースがあります。
〈作用が強くなる〉=〈副作用が強くなる〉という意味合いかな。
場合によっては、効果が強くなって、『薬のキレがいい』という状況にもなるのかもしれませんが、一般的には〈作用が強くなる〉⇨〈副作用が強くなる〉と理解した方が現実的です。
そして以下がアルコールとの飲み合わせで、類似作用によって影響を受ける主な薬です。
- 中枢抑制薬
- 糖尿病薬
- 血管拡張薬、高血圧薬、利尿剤
- 呼吸抑制
以下、解説していきます。
①中枢抑制薬
中枢抑制に関しては、 睡眠薬、抗けいれん(てんかん)薬、精神疾患系薬などの中枢抑制系の薬剤と、抗アレルギー(ヒスタミン)薬などが該当します。
※ 中枢抑制とは「脳の機能が抑制する」という意味です。
アルコールによって眠くなるなど意識が抑制されるため、中枢系を抑制する薬剤はアルコールとの相加作用により、中枢抑制がよりかかりやすい状態になります。
脳機能に影響する薬が該当するね
具体的には、翌朝の眠気の持ち越しや、過度な鎮静状態による健忘などが生じる可能性があります。
また、夜間トイレに行った場合、鎮静効果が強すぎることで転倒して外傷を受けたり、頭をぶつけて脳疾患を引き起こしてしまう可能性もあるので、注意が必要です。
このパターンに関してはそこまで複雑ではないので、医療従事者ではなくても連想しやすいでしょう。
②糖尿病薬
アルコールには、グルコースの代謝を変化させ,糖新生を抑制するため,血糖降下作用があります。
糖新生とは、低血糖になったら肝臓で糖分(エネルギー)を作って、血糖値を保つことだよ。
なので、糖尿病薬を服用している場合、アルコールによって糖新生されにくい状況下のため、血糖の回復が遅れて低血糖になるリスクがあります。
中でも糖尿病薬のうち【SU薬】、【グリニド薬】、【インスリン】 が影響を受けやいと言えます。
- SU薬・・・グリメピリド、グリベングラミドなど
- グリニド薬・・・ナテグリニド、ミチグリニドなど
- インスリン・・・ノボリン系、ヒューマログ系など注射剤
他にも糖尿病薬の種類はあって、その共通事項として「低血糖」のリスクはあるのですが、上記の薬剤がその中でも低血糖のリスクが高いです。
最近では【BG】、【DPP-4】、【GLP-1】、【SGLT2】といった分類の糖尿病薬が多く使われていますが、これらは単独では低血糖が起きにくい性質があります。
他に【α₋GI】、【チアゾリジン薬】という分類される薬剤もありますが、これらも単独では低血糖が起きにくいタイプです。
とは言え、これらも低血糖のリスクが0ではない以上、アルコールが大丈夫とは言えないのですが。
糖尿病の人はアルコール常飲者はいないかな・・・
実際は糖尿病の人は、食事のコントロールが第一となるので、アルコールを摂ると血糖コントロールが難しくなるので、飲み合わせ以前の問題ということもありますので。
③血管拡張薬、高血圧薬、利尿剤
アルコールの作用に血管拡張作用、血圧低下、利尿作用、動悸があります。
これらに影響する薬剤を服用していると、効果に影響が現れることがあります。
- 血管拡張薬、高血圧薬・・・血圧低下が助長される(増強)
- 利尿剤・・・利尿作用が助長される(増強)
- 頻尿改善薬・・・利尿作用により効果が薄れる(減弱)
- 不整脈薬・・・動悸により脈が乱れる(減弱)
血管拡張薬とは、心臓の周りを流れる血管(冠血管)を広げる薬で、狭心症の方に使用されます。
また、血圧に関しては、アルコールを大量に飲み続けると、血管の収縮反応が高まり、心臓の拍動が速まり、逆に血圧が高くなることもあります。
この場合、血圧の薬が効きにくい(減弱)状況になります。
アルコールの作用を理解できればイメージできそうだね
④呼吸抑制
その他、アルコールには呼吸抑制があります。
これは概ね用量に依存するため、適量であればリスクは低いのですが、呼吸抑制に影響を受ける薬があります。
- トラマドール
- モルヒネ系鎮痛剤
トラマドールは鎮痛剤で、ロキソプロフェンのような解熱鎮痛剤とは異なる分類です。モルヒネ系に近いのですが、モルヒネのような麻薬ではないという特殊な薬です。
ですが、副作用としてモルヒネ同様に呼吸抑制があるので、アルコールによる相加作用に注意が必要です。
何がダメ?〔②代謝競合パターン〕
アルコールと薬は肝臓で代謝されるため、アルコールが薬の代謝に干渉(競合)して効果に影響を及ぼすことがあります。
詳しくは、前回の『②肝臓代謝競合パターン』をご参考に。
これによる影響を受ける薬で、主に汎用される薬を挙げてみます。
解熱鎮痛剤(NSAIDs)
ロキソプロフェンなどの痛み止めは、アルコールによって吸収や代謝に影響を受けるため、効果に影響が出る(強いor弱い)場合があります。
アセトアミノフェン
解熱鎮痛剤の一つで、OTC(市販薬)にも配合されている薬があります。
また、インフルエンザの時には1stで使われる解熱剤です。
もともとアセトアノフェンの副作用に「肝障害」があるのですが、アルコールを多量常飲すると CYP2E1(代謝酵素)の誘導により,アセトアミノフェンから肝毒性を持つN-アセチル-p-ベンゾキノンイミンへの代謝が促進されます。
先の解熱鎮痛剤のように通常の代謝への影響以外にも、アルコール多量常飲によりカロナールの代謝が肝毒性を誘発させてしまう可能性があるので注意が必要です。
メトホルミン、ブホルミン
メトホルミン、ブホルミンは糖尿病薬でビグアナイド(以下BG)薬 と呼ばれます。
BG薬には「乳酸アシドーシス」という副作用があり、アルコールにより現れやすくなります。
乳酸アシドーシスはBG薬に特有の副作用で、具体的な症状としては悪心・嘔吐といった消化器症状を始めとして、体内の乳酸値が上がります。
アルコールは乳酸から糖への新生と、乳酸の肝臓での代謝を減少させる可能性があり、乳酸の血中濃度が上昇するおそれがあるため、乳酸アシドーシスが増強される可能性があります。
相加的に乳酸が上昇するんだね
特にメトホルミンは「過度のアルコール摂取者」は禁忌になるため要注意です。
ワルファリン
抗凝固薬と呼ばれる血液を固まりにくくする薬で、〈納豆との飲み合わせがよくない〉有名な薬です。
アルコールにより代謝競合が起こり、作用が強くなります。
また、アルコール常飲者は代謝酵素誘導により作用が弱くなる場合もあります。
ただ、常飲すると肝機能も低下していくこともあり、先の代謝競合の影響もあると、実際には効果が強くなるか、弱くなるかその状態になってみないとわからないです。
元よりワルファリンは相互作用が多い薬剤で、いろいろ他の薬とで影響するよ。
また、今は【DOAC】と呼ばれる新規系抗凝固薬が主流ですが、一部の対象の方はワルファリンの適用になります。
何がダメ?〔③アルコール代謝阻害パターン〕
薬によってはアルコールの代謝に影響を及ぼすことがあります。
アルコールは下記の図のように代謝されます。
この代謝過程で、アセトアルデヒド脱水酵素(以下ALDH)を阻害する薬があります。
アルコールを摂取してALDHを阻害すると、【アセトアルデヒド】が溜まります。
この【アセトアルデヒド】が溜まると、二日酔いの症状(頭痛、嘔気など)になり、これは通称ジスルフィラム様作用(またはアンタビュース様作用)と呼ばれます。
以下、ジスルフィラム様作用が出る薬です。
一部のセフェム系抗生物質
以下のセフェム系抗生物質がジスルフィラム様作用があるため要注意です。
- セフォペラゾン
- セフミノクス
- セフメタゾール
- セフメノキシム
- ラタモキセフ
これらはすべて注射剤なので、通常は入院中に使用されます。
中には外来で投与して当日帰院されることもあるかもしれませんが、薬剤的には入院を要する患者さんが主に対象となるため、外来での使用はレアです。
これらの薬剤を投与中、投与後(少なくとも1週間)のアルコール摂取は控えた方が良いと考えられます 。
入院中はアルコールを摂取することはないので、一見関係ないかもしれませんが、投与後1週間はアルコール摂取による影響が出る可能性や、もし外来で点滴することになれば注意が必要です。
退院祝いでお酒飲むかもしれないしね。
ご心配な方は使用した薬剤を医師、薬剤師、看護師などに確認ください。
メトロニダゾール
主に細菌性の感染性胃腸炎やトリコモナス(原虫)感染に使用される抗生剤です。
剤形は内服、注射、膣錠、ゲル剤があり、病態や患者状況により使い分けされます。
このうち、内服(フラジール錠)、注射(アネメトロ静注液)、ゲル剤(ロゼックスゲル)はアルコールへの影響を及ぼします。
膣錠(フラジール膣錠)はアルコールへの影響はないと考えられます。
添付文書にもアルコール注意の記載なく、その理由として《膣内の局所作用がメインで、投与後の血中濃度が低く体内への影響はわずか。》とされています。
また、ゲル剤は皮膚に塗るので一見影響なさそうですが、《7日間潰瘍部位に塗布後の平均最高血漿中濃度は852ng/mLになる。 》というデータがあるため、塗布後体内に吸収されることから、アルコールへの代謝に影響が考えられます。
ゲルのように外用剤でも体内に吸収されることもあるんだね。
その他、胃内ピロリ菌の二次除菌にメトロニダゾール錠(内服)は使われます。
通常は一次除菌でピロリ菌が検出されなければ治療は終了しますが、一次除菌でまだピロリ菌が残存している場合、対象となることがあります。
この場合、メトロニダゾール錠の「フラジール錠®」として処方される他に、【ボノピオンパック】、【ラベファインパック】として処方されるケースもあります。
これら【パック】にもフラジール錠が入っているので、アルコールの摂取には注意が必要です。
プロカルバジン
血液がんの一種である悪性リンパ腫治療の薬です。
悪性リンパ腫の治療は注射剤が主ですが、その中でも数少ない内服薬です。
クロルプロパミド
先に説明した糖尿病の中のSU薬に分類される薬です。
古い薬剤ということもあり、現在はSU薬の中でも使用される頻度は低いので服用してる方はほとんどいないと思われます。(私は一回も見たことないですが)
ちなみに、SU薬自体が現在の糖尿病治療薬の第一線ではなくなってきています。
このあたりはまたどこかでお話できればと思います。
その他該当しない薬はいいの?
アルコールに影響を受ける薬を挙げてみましたが、言ってみればこれらは一部の薬にすぎません。
もっとたくさん薬の種類があるよね
では、これらに該当しない薬を服用(投与)していなければアルコールは摂取していいのか?
または、服用(投与)していても少しのアルコール量なら大丈夫か?という疑問が当然出てくると思います。
これらの回答に関しては、公言している解説をなかなか見ることがありません。(私の勉強不足もあるかもしれませんが)
中には医療従事者が個人的に発信している内容のものもありますが、今回のように影響する薬以外のことは掲載していないケースが多いです。
(※個人発信の内容に関しては否定的な感情はないので誤解ないように)
全部の薬が影響するかわからないよ・・・
この「わからない」ということは、「大丈夫そうな薬はアルコールに影響しない」と断定することはできません。化学的根拠がないので。
ましてやこのような一般的に公開する情報においては特に。
基本的に「どの薬もアルコールの摂取で影響する可能性がある(または否定できない)」以上、ここでは【大丈夫と思われるケース】をお話しすることができません。
ですが、現実には結果的にアルコールが全く影響が出ないことも可能性としてはあり得ます。
それには薬の種類を始め、アルコールの量だったり、病歴やアルコール代謝能力など服用する人の要因にも差(個人差)があるからです。
ただ、このようにアルコールへの影響がなさそうな薬に関して、私のような個人が実験をして、化学的にアルコールに対する影響を立証することは実質不可能です。少なくとも私にはできません。
ですが、せっかく今回レビューして、調べれば他にも検索されような情報だけで留まるのも不甲斐ないので、次回は、
「自分なら・・・お酒と一緒でも大丈夫な薬はあるんじゃないか?」という〈私個人の自己責任のもと〉で判断する内容を次回アップしたいと思います。
もちろん他の人には当てはまるわけではないのですが、薬剤師と公言して、もう少し身近に参考になる情報になればという思いです。
長くなりましたが、今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。