普段、私は認知症をメインに診ている医師とお話をすることがあり、認知症薬についてまとめてみたいと思いました。
最初はドネペジル(アリセプト®)について解説してみます。
もくじ
最初の認知症薬
ドネペジル(アリセプト®)は国内で最初に認可を受けた認知症改善薬です。
1999年に発売され、普通錠の他に口腔内崩壊錠、ゼリー、ドライシロップ(散剤)といった剤形もあります。
当時は【アリセプト】しか認知症薬がなかったので、他に競合する薬がありませんでした。
2011年には他3剤(ガランタミン(レミニール®)、リバスチグミン(リバスタッチパッチ®/イクセロンパッチ®)、メマンチン(メマリー®))の認知症薬が発売されています。
2011年にはジェネリックも発売されたよ
つまり、1999年~2011年までは認知症薬と言えば【アリセプト独占】だったのです。
2011年以降は他3剤の発売もあり、治療薬の選択肢が増えて患者さんの状態に応じて使い分けがされています。
高度認知症への適応あり
2007年には高度認知症に対し1日1回10mgの用量が承認されて、10mg錠も発売されました。
それまでは3mg、5mgの錠剤規格で、維持量は5mgまででした。
3mgは【身体慣らし量】となっています(全症例に?・・・後半へ)
DLBの適応あり
2014年にDLB(レビー小体型認知症)の適応が通りました。
現状としてはDLBに適応があるのはドネペジルだけですが、実際の診療ではリバスチグミンパッチやパーキンソン治療薬など使用されることもあります。
おそらく今後は他の認知症薬もDLBへ適応取得されていく可能性はあると考えられます。
ドネペジルの作用
作用としては脳内のアセチルコリンエステラーゼを阻害して、 ACh(アセチルコリン) 量を増加させ、脳内コリン作動性神経系を賦活します。
AChは神経伝達物質で、脳内では認知機能(記憶・学習)を保つ働きを持っています。
これはドネペジル以外にもガランタミン、リバスチグミンパッチにも共通している作用になります。(※メマンチンは別作用)
ドネペジルなどのコリンエステラーゼ阻害薬はACh量を減らさないようにし、認知機能を改善させることが期待されています。
規定通りの用量ではないこともある
ここからは実際の診療でのお話になります。
これまではDI情報(教科書的内容)でした
添付文書(説明書)には、
「3mgから開始して、その後5mgへ増量。その後必要に応じ10mgへ。3mgは副作用軽減目的(慣らし量)で、有効量ではない。」と記載されています。
しかし実際は全てのケースにおいてこの通りに使用されるわけではありません。
順当な用量upは副作用に注意
上記のように順当に用量を上げていくと、副作用が出るケースがあります。
具体的には「興奮性」、「錐体外路症状(パーキンソニズム)」、「消化器症状(悪心・嘔気など)」、「徐脈」などがあります。
中でも《興奮性➜怒りっぽくなる》と、【病状が悪化した】と感じる場合もあるかもしれません。
こういう場合は5mg以下で投与したり、他剤へ変更することがあります。
薬は常に副作用とのバランスだね
また、錐体外路症状に関しては、脳内AChが多くなると相対的にドパミンの量が少なくなり、「パーキソン症状」が出ることがあります。
症状としては、歩行が小刻みになったり、身体の動きがぎこちなくなったり、嚥下が難しくなることがあります。
5mg以下でも効果はある
上記のように副作用が懸念される場合は、添付文書の記載と異なりますが、5mg以下で継続投与することがあります。
もちろんその際は効果も出ていることを前提として。
3mgであったり、中には1mg前後で投与する場合もあると医師から聞きました。(特にDLBには)
特に薬剤師の方々は知って損はないと思います!
(私もwebを通じていろいろ学ばさせてもらっているので)
3mg以下の場合、ドライシロップ(散剤)製剤を使うと用量の微調整がしやすいです。
以前はこのような規定外の低用量で使用すると、いわゆる適応外処方とみなされ診療報酬が認められないことがありましたが、2016年6月付けで厚労省から容認されました。
個々に応じた適切な用量が大事だね
どういうタイプに使われる?
ドネペジルが適応する患者さんは、
無気力、無反応、意欲の減退がみられる
これらの症状がある患者さんに使われるケースが多いです。
ドネペジルによって意欲を出す、言葉の数を増やすなどといった効果が期待できます。
逆に【興奮しやすい・しているタイプ】は刺激を助長してしまうので、使用されない印象です。
どのくらい効くの?
臨床試験的には
ではどの程度効くのか?ということですが、臨床成績を確認してみました。
《ドネペジル5mgとプラセボを24週間投与した臨床試験268例ーIFよりー》
- ドネペジル:軽度改善以上51%、不変31%、軽度悪化以下17%
- プラセボ :軽度改善以上22%、不変36%、軽度悪化以下43%
この他にも、認知機能評価のADAS-cog、CDR試験によってもプラセボと比較され、効果が認められ承認されています。
実際の診療において、この結果がどの程度重要視されているかは何とも言えないのですが、1つの指標にはなるというところでしょう。
実際は(感覚的に)
実際の効果は、およそ2、3人に1人は改善度があると伺っている印象でしょうか。
ただ効果の感じ方も症状や個々によって変わるので、このあたりは正確な数字は難しいようですが。
少しでも変われば「効果が出た」と表現されることもあるので。
病態自体はよくならない
ドネペジルによって症状的なことは多少なりとも改善できることはありますが、根本的な認知機能の回復には至らないと明記されています。
つまり【病態そのものの進行は抑制できない】ということです。
これはドネペジルだけではなく、他の認知症薬にも共通しています。
では薬が意味ないのか?ということに関しては進行抑制の他に、症状改善や脳内活性に対し有効と考えると、薬の成す意味はあります。
「少しは効くだろう」、「あまり効かない・・?」、「気持ち的効果」という薬は他にもいくつかあるよ。
しかし改善の兆しが見られない状況で漫然と長期に投与するのはいかがなものか?と思うことはよくあります。
入院中の持参薬確認で、「状態的にもう不要じゃないか・・・」と思うことはありますね。
実際はどの程度効果があるのか数値化ができなく、継続の判断は難しいと感じます。
長期的に投与が続いているのであれば、効果の程度を主治医に確認するのがいいでしょう。
薬は補助的
最後ですが、認知症は薬だけで改善する病気ではないことは確かです。
通院している時だけではなく、家族の普段の接し方でも改善度が変わってくる病態だと感じられます。
余談ですが、薬だけで良くなる病気はどのくらいあるのか?というくらい薬は補助的の場合が多いです。(もちろん治療のメインになることもありますが)
私が薬を説明・提供する側として言うことではないのかもしれませんが、日々医療に接する上で感じることです。
ただ補助的要素であったとしても、それをきっかけや手段にして治療につながったり、周囲の人への負担が軽減できれば、薬が間接的ではあっても相応な役割を果たしていると思っています。
少しでも改善できることが大事ですね
ということでドネペジルについてまとめてみました。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。