もくじ
インフル罹患者と接触した場合
もしインフル罹患者に医療職員が1、2日接触した場合、〈タミフルなどの抗インフルエンザ薬を職員に予防投与した方がいいのか?〉と医療施設内で質問に挙がることがあります。
病院など医療機関の職員がインフルになった場合、拡散しないか心配だよね。
現に、「インフル罹患者と濃厚に接触した場合、職員にタミフルなどのインフル薬を予防投与する。」というルールを設けている医療機関はあると聞きます。
でも1、2日の接触で薬の予防は必要かな?
これもその施設によって取り決められていますので、一概に必要、不要とは言い切れないですが、今回改めて考えてみました。
なぜ予防投与の考えが生まれたか
ちょっと話はそれますが、なぜ医療機関だとそういう「職員に対する予防投与」という考えが生まれるのでしょうか?
一番は、他の患者さんにインフルを媒介しない。
これは最もな理由だと考えられます。治療に来ている患者さんが、受診して病気をもらってきたら大変なことです。
その他にも理由があるのか考えてみました。
それは、《すぐに薬が入手できるから》というのも理由ではないかなと。
もちろん予防投与するにあたり、「職員を通じて他の患者にうつさない」というのが大前提ですが、薬が施設内(または近隣)で手に入ることがこのルールを決行できる一番の要因ではないかと思われます。
すぐ薬が手に入らないと困るよね。
医療機関では大抵はインフルエンザ薬を所有しています。(皮膚科など診療でインフルエンザを診ることがレアな医療機関では所有していないこともあります。)
なので、すぐに薬が手に入らない環境では、このような「予防投与をする」という取り決めがあっても煩わしくてなかなか実行されないでしょう。
予防対象者を確認
タミフルの予防投与の内容を確認してみましょう。
(以下タミフル添付文書引用)
原則として、インフルエンザウイルス感染症を発症している患者の同居家族又は共同生活者である下記の者を対象とする。
- 高齢者(65歳以上)
- 慢性呼吸器疾患又は慢性心疾患患者
- 代謝性疾患患者(糖尿病等)
- 腎機能障害患者
『原則として、インフルエンザウイルス感染症を発症している患者の同居家族又は共同生活者である 』
この前提が予防投与を考える上で重要になるのではと考えます。
それで先ほどの 『タミフル添付文書』 では予防投与対象者に「医療職員」の記載はありません。
添付文書の対象者に記載が無くても使用するケースはあるよ。
「職員」の記載がないから投与不要とは言い切れないし、タミフルに限らず添付文書に書いていないケースでも、患者さんに必要があれば(該当する)薬剤を投与することは多々あります。
実際、すべてのケースについて添付文書に記載するのは不可能なので、これだけでは何とも言えません。
もう少し考えてみました。
タミフル予防投与7~10日の根拠は?
予防投与期間は各薬剤によって多少異なりますが、ここではタミフルを例にしてみます。
タミフルでは予防投与期間は1回1カプセル✖1、7~10日間となっていますので、予防する場合7~10日間服用します。
(治療の場合は1回1カプセル✖2、5日間です。※それぞれ腎障害者は減量)
予防投与の期間設定は、なぜ7~10日になっているだろう?
治療が5日間というのは、5日服用して効果が得られたからだろうけど、そもそも予防が7~10日になったのは何でかな?
とうことで製薬メーカーに聞いてみました。
インフルが完治するまでの期間が一般的に7日前後なので、それを基に設定されました。
「罹患者が治るまで薬を服用していれば、感染から予防できる」という意味合いですね。
はい。「服用している期間だけ予防できる」ので、相手方(罹患者)が完治したら服用終了という意味合いです。
罹患者と接触している時間が「うつる」可能性があるので。
ということは、接触したのが1日だったら予防投与する意味はなさそうですかね・・?
そのあたりは何とも言えませんが、薬効を考えると「予防する必要がない」という考えもあります。
施設様による意向になるかと。
わかりました、参考にさせていただきます。
と、製薬メーカーは基本的に添付文書以外のことに関しては、各医療機関においての責任を負えないのではっきりした回答はできないのが通例です。
こういう客観的情報から我々医療人が現場に見合った回答を考える必要があります。
そうすると、1、2日インフル罹患者に接触しただけでインフル薬の予防投与は微妙じゃないかな・・・
予防投与の前提であった、『原則として、インフルエンザウイルス感染症を発症している患者の同居家族又は共同生活者である 』
これに注目すると、職員が完治するまで罹患者と接触しているわけではないので、
接触してもどれだけの確率でうつるかわからないし 、一律に予防投与は不要じゃないかな?
そもそも接触がなくなってからはうつることがないわけで、接触して2日目以降接触しなかったら、薬を7日間も服用する意味はないよね。
でも接触してから 体内にインフルウィルスが潜伏している可能性もあるから・・・うつってしまうこともあり得る。
じゃあシーズン中同じことが数回あれば、その度に予防投与するっていうのも何か納得もできないかな。インフルに罹っていないのに飲みたくないっていう人もいるだろうし。
もし予防投与するなら、インフルウィルスの潜伏期間の2日間だけ服用するのはどうかな?でもそんな投与期間はそもそも設定されていないよね?!
と、いろいろ複雑になってきました。
予防薬は接触期間が重要では?
先ほどの予防投与期間の意味からも、予防投与をする場合「原則はインフル罹患者と同居する(くらい接する)」ということがポイントと考えられます。
家族などの同居者は接触している時間が長いので、インフル罹患者が回復するまで接触する期間は長く、「うつる」可能性はあります。
ましてや、同居者の中でも特に記載されている対象者のように「高齢者」などは免疫力が一般的には低く、感染リスクが高いので〈予防投与をする意義はある〉ということになります。
つまり、インフル罹患者と1日接触した医療従事者は、この理論には沿っていないのではないかと思いました。
自分の出した答えは?
私の考えではありますが、医療職員に対しての予防投与の結論を出しました。
①インフル罹患者と接触しても原則、薬の予防投与は不要。
②職員本人(うつる側)の希望があれば、職場医師に処方許可を伺う。(自費)
②に関しては医師の判断になるのでどう回答されるかわかりせんが、同じ職員の希望は聞いてくれるんじゃないかと思います。
これは私の見解なので、正解というわけではありません。
当然、各施設においては医師、看護師などの他職種の意見を取り揃えて予防投与が決定されます。
でも、もし私ならこう意見するだろうと考えました。
やはり根底として不要と考えるのは、添付文書の予防投与の項目にあるように、
「原則として、インフルエンザウイルス感染症を発症している患者の同居家族又は共同生活者である下記の者を対象とする。 」
- 高齢者(65歳以上)
- 慢性呼吸器疾患又は慢性心疾患患者
- 代謝性疾患患者(糖尿病等)
- 腎機能障害患者
ということなので、「罹患している期間の同居」と「該当疾患者」の観点から不要を原則に掲げたいです。
通常、健康な状態であれば免疫がありますので、そう簡単にはうつらないことが多いと考えられますので、そういう場合の薬剤による予防は基本不要かなと。
そして②の希望者で〈自費〉と考えたのも意味があります。
予防投与した薬剤費は誰が負担するのか?という問題があります。
薬代は誰が払うのかな?
インフル罹患者と接触することは業務上必要だったということが想定されるので、通常は職場が負担することになると考えられます。個人の過失とは考えにくいので。
ただ、職員の人数によりますがこの予防薬剤費を職場が負担していくと、不可抗力とはいえ職場の損失にはなります。そういうことも考えると投与は〈②の希望者だけ〉にして、自費という選択肢もありかなと。
自費というとちょっと冷たいようですが、職場負担にすると希望者がたくさん出る可能性があり、結局関与した人がほとんど予防投与されたら〈①の原則不要〉という考えも意味をなさなくなるので。
「罹患者と接触を終えた後の(潜伏期間)2日間まで服用する」という考えもありましたが、やはり期間設定のエビデンスがないので説得力はないのことと、ルールを決める上で【7日間】のように服用日数を一律に決められないのは煩雑なので、ルールには適さないかなと思いました。
でも〈服用している期間だけ効果がある〉ということは、接触しなくなって3日目以降は体内からウィルスがなくなってるから、それ以降の薬の予防効果はないと考えられるので、個人的にはこの考えはありだと思いますが。
ただ経験上、このような規定外で煩雑な意見は他医療職員への理解は得られにくいかなと。
あとは原則不要論を出したのは、「本当に必要だと感じたら飲みたい」という気持ちでしょうか。
不必要な薬は誰も飲みたくありません。でも家族に小さい子供がいて、その子にもうつったら?とか心配になる職員もいるかもしれません。個々の状況は皆違います。
なので、そういう心配ごとがあって本人が希望するなら予防投与するのもありだと思いました。
ちなみに私なら、職場の規定がなければ予防投与は希望しません。不安だったら2日くらい飲むかな。これは一個人の意見としてですが。
余談ですが、、
もしこのインフル薬予防投与に関して、「医療機関以外の職場だったら?」どうでしょう。
医療機関以外の職場だとインフルの人に接触した場合、〈同じ職場の職員に予防投与を検討する〉というルールはないと思われます。
まずは医療機関に受診が必要になるので、体調が悪いわけでもない段階で受診する人はいないでしょう。
そもそもインフルになった場合、通常は職場を休むので、家族でもない限りそんなに長く罹患者と接していることはないはずです。
もし罹患者と接触する期間が長い場合は、「医療機関に受診してその旨を伝えて、予防投与に至るかも。」というケースもはあるかもしれませんが、そうないことが通常だと思います。
当人の希望で重要な会議や、家族に学校受験者がいるなど重要なイベントを控えている場合は別として。
なので、「職員へのインフル薬の予防投与」は他の患者さんへ拡散しないということが前提ですが、医療現場ならではの考えなのかなと思いました。
長くなりましたが、職員への予防投与に対して今回いろいろ考えてみました。
最後まで読んでいただきありがとうございました。