現在私は病院で勤務しています。以前は調剤薬局で勤務していたこともあります。
病院薬剤師って入院患者さんは別として、外来患者さんと接することがほとんどないので、「何をやっているんだろう?」と思う人は多いと感じます。
外来の患者さんの方が (入院より) 圧倒的に多いからね
外来処方も院内の薬剤師が対応している医療機関はありますが、 多くの医療機関では 【院外処方箋】にて、院外の調剤薬局が処方応需しています。
ちなみに、この院外処方率(分業率)は2019年度で約75%に及んでいます。
今回、医療現場の側面に興味がある方や、病院で勤務してみたいと思う薬剤師さんに参考になればいいと思い、一般的に行われている院内の薬剤師業務の内容をご紹介します。
(病院の規模や診療科によって内容は多少異なります)
初めての業界で働くって不安だよね
まずは調剤編です。
院外と異なる点も合わせて説明していきます。
それでははいきましょう。
もくじ
入院処方調剤
入院患者さんに薬が処方されたら、調剤して病棟看護師さんが配薬できるようセットします。
内服・外用剤の調剤
処方箋に記載されている内服、外用剤を調製します。
錠剤を揃えたり、散薬計ったり、粉砕したり、一包化したりと、院内・院外共通の業務で大方イメージできるかと思います。
院外と異なる点は、ほとんどの患者さんに一包化して調剤します。
外来患者さんでは、一包化は全体のうち少数だよ
入院患者さんへは看護師から配薬になるので、分包した方が看護師も配薬しやすいです。
中には患者さん本人が管理できる場合、分包せず既製品の状態の【PTPシート】で患者さん本人にお渡しすることもあります。
このあたりは医療機関によって取り決めが異なります。
最近は助手員の調剤も
また、昨今では調剤の一部を《助手》に行ってもらう医療機関も増えています。
この《助手》というのは資格者ではなく、言ってみれば薬剤部に配属された一般職員です。
助手員は多くの医療機関で採用されていて、薬剤部以外の各部署(看護部、放射線科、検査科、リハビリテーション科など)に必要に応じて在籍しています。
各部署が資格者だけの人材で業務を担うには、人材確保と人件費の問題があるため、近年は一般の人が医療機関で勤務できる施設は多いと考えられます。
薬剤部の助手の通常業務は在庫管理、薬品補充、発注業務、書類整理などの業務を主に担ってくれます。
助手さんがいてくれて助かりますよ
『調剤は薬剤師の仕事』というのが法律上あるのですが、現実は薬剤師確保が難しい施設が多くなって業務に負担がかかるケースが見られています。
また昨今では【対人業務】という言葉があり、薬剤師は薬の作業的な仕事【対物業務】だけではなく、もっと治療に関わるように患者さんや医療従事者と深く関わる業務に重きをおくようになっています。
対物業務⇨対人業務にシフトしていこう
これらに対し、薬剤業務に関して非資格者に対し一部の業務を移行できるよう、ついに2019年4月に厚労省からも条件付きで認められました。
簡単に言うと、
『一部の調剤を除いて最終的に薬剤師が確認していれば、薬剤師以外の者が調剤してもよい。ただし、最終的な責任は薬剤師が負う。』
一部の調剤とは、散剤、軟膏、液剤など計量混合する処方の場合です。
これらは計量混合して〈最終的に出来上がった薬〉を確認しても、何が混ざってきちんと計量されているか判断がつかないため、これらは薬剤師が調剤するように、ということが背景にあると考えられます。
これらの調剤に関しては院内・院外に共通のため、院外の調剤薬局でも同じように薬剤師以外のスタッフが調剤に関わっていると思われます。
特にピッキング(錠剤集め)は薬剤師じゃなくても難しくないしね
散剤など計量する時にバーコードで薬剤認証できる「計量システム」を導入している施設もあるよ。そうすると薬自体や計量間違いはまずないけど。
全ての施設で「計量システム」が導入されていないから、取り決め的には除外しておかないとね。
ピッキングに関しては、単純作業ということと「調剤の定義に該当するのか?」という個々の解釈の差から、この通達が出る前から行われている施設もあったと伺えます。
ただ、規格違い(同じ錠剤で10mg、20mgと複数ある場合)、剤形違い(同じ薬品名で錠剤、カプセルなど複数ある場合)などの取り間違いを起こさないよう、事前にスタッフへの教育を行うのが前提ですが。
最近では監査システムを導入している薬局もあって、より間違いを防げるね。
特に院外薬局では、薬剤師以外のスタッフも調剤に関わることができれば外来患者さんの待ち時間短縮になります。
私の経験的にも、薬剤師と助手を比べても薬の規格・剤形違いの種類を把握していれば、〈両者の作業間違いの差〉はあまりないと感じます。
院内製剤
通常の内服などの調剤は、ピッキングや一包化したりすることですが、
【院内製剤】というのは《薬剤師の手》を加えて既製品同士を混合などして製剤化します。
何でそんなことをするかというと、その調製(混合)した製剤が販売されていないからです。
既製品だけで対応できない場合もあるんだよね
例えば、抗がん剤治療の口内炎に対するうがい薬で、「キシロカインアズノールうがい液」という製剤があります。
詳しい製造法はグーグルなどで調べれば出てきますが、ざっくり言うと、
《キシロカイン液+グリセリン液+アズノールうがい液+精製水を混合する》
この調製した液剤でうがいすると、抗がん剤治療をしている時の副作用の口内炎に有効性があります。
各薬剤の特性は、
- キシロカイン:局所麻酔剤で、痛みを軽減する。
- グリセリン:潤滑剤(液剤)で口腔内を潤す。
- アズノール:組織創傷治癒、抗炎症作用あり。風邪などの口内・咽頭炎でも処方される、いわゆる咳嗽剤。
アズノールうがい液単体で無効時や、痛みが強い場合に処方されるよ
院内製剤の種類は、病院の規模や診療科によって扱う薬剤が異なりますが、多い所で20~30種類を扱う医療機関もあるようです。
ちなみに私がこれまで関わったことがある製剤は、10種類くらいです。
また、院外薬局でも院内製剤のような特殊な処方が出ることがあります。
先ほどの「キシロカインアズノールうがい液」も院外処方で出ることもあります。
院外でメジャーなものとしては、《耳垢水(じこうすい)》です。
耳垢を取りやすくするために、耳の中に入れる液剤です。
耳鼻科の処方を受けると、院外薬局で扱うこともあるでしょう。
看護師からの配薬
院内で調剤された薬は、通常看護師さんから入院患者さんに配薬されます。
院内調剤で院外調剤と異なる点は、〈看護師が配薬できるような内服セット業務〉があります。
ただ院外薬局でも在宅・施設に訪問して配薬する場合、カレンダーや内服ケースにセットすることもあります。(薬局内で行っているところもあるかもしれませんが)
一包化された薬を下記のような〈内服セットケース〉に1日分ずつ患者さんごとに分けてセットします。
このケースにセットされた薬を、看護師さんが個々の患者さんに配薬するんだね
まあ、単純な作業なんですが、実はこのセット作業が間違える時があります。
私の経験上、この内服セットに関わることがインシデント事例で一番多いです。
あなどれない業務なんですよ
セットしていくだけなら煩雑ではなく、ミスもほぼないのですが、
調剤後に処方内容が変更になると、このセットされた薬に追加したり、セット後で中止になった薬があれば「抜く」ことがあります。
調剤する前の変更であればセットに影響はないのですが、調剤後に変更になるケースが多いです。
調剤後の変更作業が加わると、ミスの頻度が増えます。
なんか状況がわかりにくいな・・
イメージしにくいと思いますが、調剤する時は処方内容によりますが通常1週間くらい作ります。(病院によってやり方は多少異なりますが)
この調剤後の1週間の間に、特に急性期の場合は入院患者さんの状態が変わることはよくあります。
例として、胸水貯留の患者さんに利尿剤が7日分処方出た場合、
7日分調剤する➡投与4日目で脱水傾向になった➡5日目以降の利尿剤を半量に減量する
といった感じで調剤後の変更が生じます。
これは致し方ないことですが、その状態変化に連動して薬も変更になると、結果的に処方内容に変更が生じます。
先の例では複雑ではないのですが、それなりに複雑なケースの場合もあるので、そこは皆責任を持って業務を行っております。
その他、違う患者さんにセットしないよう、名前も間違えないよう確認します。
似ている患者さんの名前がいたら要注意だね
持参薬鑑別・調剤
入院してくる患者さんは、多くの場合外来で通院しています。
そうすると、普段飲んでいる薬を入院中も服用する必要があるため、入院時に持参薬を持ってくるよう看護師などから説明を受けます。
鑑別、残薬確認
入院中預かった薬は薬剤部で鑑別、保管します。
この時に、薬の内容はもちろんですが、残薬から普段の服用状況や、保管状況がわかるので、家での管理状態がある程度把握できます。
中には薬袋・説明文書が無かったり、ピルケースで保管していたりすると用法がわからない場合があるので、患者さんに聞きに行って確認します。
持参薬の状況をみると、飲み忘れたりして長きに渡ってきっちり用法通り飲んでいくことは難しいと常々思わされます。
自分も飲み忘れることはあります・・
朝1回だけならなまだいいですが、毎食後や食前があったりすると、その分飲み忘れの機会は増えます。
また、年齢や病態などから患者さんの理解度が低いと、服用達成率は下がる傾向にあります。
服用率80%超えていたら優秀だと思います
特に自分で管理できない場合は、家族の協力があってこその治療だと理解させられます。
調剤
鑑別した持参薬は医師に確認して、必要な薬は入院中も継続します。
持参薬がPTPシートであればそれを一包化したり、不要な薬があれば抜いたりします。
そして持参薬を使い切ったり、患者さんが持参できない場合は院内の薬で対応します。
他院の処方の場合、同じ薬がない場合があるので、その場合は院内採用の同効薬に切り替えます。
同じ医療機関でも外来処方で扱っている薬を院内で取り扱っていない場合もあるので、院内と院外で採用薬が異なるのはよくあることです。
院内は院外より使える薬を制限しているよ
在庫を抱えるということは、それだけ経費がかさみます。
なので経営上、院内の薬が少ないに越したことはないです。
もちろん少なすぎると治療に影響が出るので、必要以上に削減はしませんが。
例えば、血圧の薬で同じ作用の薬が10種類あったとすると、院内では2、3種類に制限したりなど。
ここではジェネリックという意味ではなく、先発薬品同士でも細かい臨床データの違いはあるにせよ、治療に対する影響がさほど変わらない(横並び)薬があります。
横並びの製剤は結構あります
このあたりはまた別でアップしたい思います。
処方変更へつなげる
持参薬の残薬状態や入院中の患者さんへの聞き取りで、入院中に医師にフィードバックして入院中や退院後の処方に活かしてもらうことも重要な業務です。
例えば、残薬状況が以下の場合、
- 昼の残薬が多い
昼の飲み忘れが多い傾向にある。または外出が多く飲めない機会が多い。
➡1回または2回服用タイプの同効薬があれば医師に変更依頼する。
無い場合は、用量・用法を変えて対応できるか相談。
- 散剤が他の錠剤に比べ余っている
散剤が苦手な可能性がある。
➡錠剤の同効薬があれば医師に変更依頼する。
特に漢方など錠剤がなく、代替えができない場合、医師に必要性を検討して不要なら削除していただく。
- ボトル液剤の残量が他の薬の残数と合っていない
自分で計量できない場合、過量(過少)服用の可能性がある。
➡他の剤形や個包装になったタイプの製剤(自己計量不要)があるか調べて提案する。
- 睡眠剤、下剤、鎮痛剤、湿布がやたら多い
本人は頓用しているが毎回処方のたびにもらっているケースが多い。
➡次回外来で処方しないようカルテなどに記録して、退院後医師にわかるようにする。
- 吸入薬がやたら余っている
吸気能が下がって吸えていない、吸うことが大変になってきている、吸入器デバイスの操作が難しい可能性がある。
➡その患者にあった薬剤、デバイスがあれば医師に変更依頼する。
いろいろありますね~
これらは患者さん本人または付き添い家族が診察時に医師に言えれば解決されることがほとんどですが、医師に言うことはハードルが高いとおっしゃる方が多いです。
こういう場合、我々が伝えるということも退院後の投薬・治療に影響するため重要な業務だと感じます。
これは院内に限らず院外薬局でも同じような患者さんの声があれば、医療機関に問い合わせしてくれる薬局もあります。
これらの事例のような変更になる可能性がある場合、現在の処方を遵守できるか患者さんに再確認して、それでもダメなら提案します。時には現治療でいけそうなこともあるので。
変更依頼するのは【今のままではムリ】ということが前提なので。
そして患者さんに確認した結果、〈何かしらの状況で飲めない(使えない)〉のであれば、処方を継続する意味は実質なくなり、そういう場合はできるだけ現処方を継続せず別な方法に変更してもらうよう医師に検討してもらいます。時には中止という選択もありきで。
飲めない(使えない)のであれば、中止している状況と同じなので。
以上が主な調剤に関わる業務です。
全体の業務のまだ一部ですが、長くなってしまったので別の業務は新たにアップしたいと思います。
細かいところまで書いてみたのですが、何かの参考になればと思いました。
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。