現在私は病院で勤務しています。以前は調剤薬局で勤務していたこともあります。
前回に続き、医療現場の側面に興味がある方や、病院で勤務してみたいと思う薬剤師さんに参考になればいいと思い、一般的に行われている院内の薬剤師業務の内容をご紹介します。
今回は注射剤編です。
それではいきましょう。
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もくじ
注射箋調剤
入院している患者さんの多くは注射剤を必要とします。
特に絶食下であれば輸液は必須です。
輸液は〈命の水〉ですね
患者さんに処方が出た薬を、注射カートに個別に入れて注射剤をセットしていきます。
このカートの中に患者さん個々の注射剤をセットしていきます。
薬が1種類の人もいれば5~10種類に及ぶ人もいて、概ね患者さんの重症度に薬剤数は比例します。
薬剤をセットするだけではなく、投与時間など使用方法が適正かどうか確認します。
薬によっては「1時間以上かけて投与する」、「投与期間7日間程度まで」といった規定があるので、これらを見落とさずチェックしていきます。
注射剤の混注
薬剤は単独で使用することが基本ですが、その種類が多くなったりすると、アンプルなど輸液の中にまとめて一つにして投与することもあります。
また、バイアル製剤に関しては、多くが固体(粉)になっているため、生食などの溶液に溶かす作業が必要になります。
混注業務は医療機関によって薬剤部で行うところもあれば、看護部で行うところもあります。ちなみに私は両方経験しました。
薬剤部で混注を行う場合、以下の特徴があります。
- クリーンベンチで衛生的に作業できる
- 看護師の負担が減らせる
- 廃棄薬が増える傾向になる
①クリーンベンチでの作業
薬剤部で混注を行う場合、多くはクリーンベンチと呼ばれる機械の中で作業を行います。
クリーンベンチ内は、内部の送風構造により無菌環境によって衛生的な作業を行えます。
大きさによって1~3人くらいで作業できるよ
これは価格帯が100万以上に及ぶため、ある程度の大きい医療機関ではないと扱っていないと考えられます。
中心静脈栄養による混注の場合、【無菌製剤処理料】という加算を算定できるため、長年に渡ってこの機械の購入代をpayできます。
また、クリーンベンチは在宅を行っている調剤薬局でも扱っているところもあり、同様に【無菌製剤処理加算】という加算を算定できます。
(両者の算定名称は異なるが、同じような解釈)
payできないと、なかなか導入できないよ
この機械が購入できない場合は、ある程度清潔度が保たれる場所で混注業務を行うでしょう。
②看護師の負担を減らせる
薬剤部で混注業務を担えると、看護師さんがその分の作業がなくなるため、負担軽減ができます。
これも病院の形態によりますが、全部の混注を薬剤部で担える施設もあれば、休日や至急オーダーの場合、看護部で担う施設もあります。
③廃棄薬が増える傾向になる
薬剤部で混注を行う場合、業務の都合上で投与直前というのは難しく、ある程度事前に行います。
施設によりけりですが、投与数時間前に混注される場合もあります。
この〈事前作業になる〉ということは、混注後~投与の間に患者さんの状態変化を医師が確認した場合、薬剤の変更が起きるケースがあります。
薬剤が変更になった場合、混注後の薬剤は廃棄することになります。
時々再利用できる場合もあるけど
投与直前に混注するに越したことはないのですが、日中のスタッフが多い時間帯と、患者さんへの投薬の切り替えタイミング(例:0時交換)とがマッチングしないことがあります。
なので、スタッフが多い時間帯に作業を行うため仕方ないことではあります。
看護部で行う場合
薬剤部で混注できない場合、看護部で行います。
この場合、ナースステーション詰め所などの作業場で行うことが多いです。
看護部で行う背景としては、以下のようなことがあります。
- クリーンベンチが購入できない
- 薬剤部員数が少なくて業務を担えない
- そもそも混注業務が少ない
クリーンベンチは高額なため、それに見合うほどの業務量が無いと購入に至りません。
特に混注による加算でpayできないと判断されれば、購入されないことが多いでです。
衛生環境も大事だけど、経営できての設備投資なので
よって、小規模クラスの病院では看護部が担っている傾向になると考えられます。
また、廃棄に関しては、薬剤部で行う場合より、もう少し投与前の時間帯に作業できる傾向があるため、混注による廃棄薬は少ないと思われます。
注射剤の配合変化
混注すると配合に関する問題も生じます。
輸液類に混注
注射剤の多くは生食や糖液などに溶解して投与する場合が多いです。
中には、輸液類に複数まとめて投与するケースもあります。
上記のような輸液に混注する場合、薬によっては混濁する場合があるため、このような不都合が生じないことを確認します。
多くの薬剤が生食(電解質)や糖液とは比較的配合変化が起きにくいですが、高カロリー輸液などアミノ酸が配合される輸液には影響が出るケースがしばしばあります。
薬もタンパク質だと干渉することもあるので
配合変化に関しては書籍、web、メーカー問い合わせなどで調べます。
側管などから混注
輸液類の混注に関しては投与前の工程ですが、それ以外にも投与している最中にも混注されるケースもあります。
基本的には注射剤が複数必要な場合、一つずつ順に投与して終了したら切り替えていくのですが、24時間点滴をつないでいたりすると〈まだ投与している点滴の横から、別の薬を投与する〉ことがあります。
これらは患者さんにつないでいる点滴ルートの形状や薬の内容によって振り分けられます。
この場合も最終的に患者さんに投与する前に薬剤が混ざり合うので、配合変化が問題になる場合もありますので、回避できる方法を提案します。
配合変化の多くは側管関連の問い合わせが多いね
化学療法
化学療法とは主に抗がん剤治療のことを言います。
抗がん剤は注射剤が主ですが、この10年くらいでは内服剤の新薬が多く発売されて、より外来治療へ移行できるようになっています。
抗がん剤の調製
注射用抗がん剤の調製は、薬剤部で行っているところが多いです。
輸液類とは別の扱いだね
抗がん剤に関しては衛生的な作業もう必要ですが、調製者並びに周囲への影響も考慮します。
薬によって影響度は異なりますが、抗がん剤注射液が皮膚や粘膜についたり、吸入してしまうことでスタッフ側への影響というのが問題になることもあります。
そのため、多くの施設では【安全キャビネット】と呼ばれる機械の中で混注を行います。
一見、クリーンベンチと区別がつきにくいですが、中の構造が異なります。
クリーンベンチは主に機械内の空気を外に出して衛生状態を保っているのですが、安全キャビネットは逆に空気が機械外に出ないように中で吸引して外部への曝露を防ぎます。
なので、このように安全性を考慮する必要があるため通常薬剤部で行います。
ガウン、手袋なども必須だね
ただ、抗がん剤の使用頻度が少なく、扱っている薬剤も少なかったり設備投資が難しい施設は、周囲への影響を考慮した場所で混注作業を行います。
ちなみに、中心静脈栄養による混注のように【無菌製剤処理料】加算の対象となり、その点数も輸液より高めに設定されています。
混注以外の業務いろいろ
化学療法の業務は混注以外にもいろいろあります。
- 医師、看護師などと共有してレジメン(治療内容)の管理
- 投与前の用量・用法チェック
- 患者さんへの服薬指導、副作用などモニタリング
- 院外薬局との連携
- 高額薬剤のため入念な在庫管理
これらは注射剤の業務以外のことも多いので、また別の機会にレビューしたいと思います。
以上、注射剤編でした。
今回もかなり細かいところまで書いてみました。
まだまだ病院薬剤師の仕事はありますので、今後も引き続きアップしていきたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。